近くて遠かった憧れのワイナリーへ|Tripozご夫妻が語るビオディナミ『ワインの輪』ありがとう

フランス生活

ビオディナミ(Biodynamie)入門|自然と宇宙のリズムで育むワイン造り

イントロダクション

Biodynamie(ビオディナミ)は、1924年にオーストリアの思想家 Rudolf Steiner(ルドルフ・シュタイナー)が提唱した農法で、自然環境と宇宙のリズムを調和させることを目的としています。
近年フランスのワイン造りでも注目を集め、ブルゴーニュ各地で導入するドメーヌが増えています。ここマコン地区でも、その旗手として知られる造り手が存在します。

基本的な考え方

●化学肥料や除草剤は使わない
土壌が本来持つ生命力を取り戻すことを重視。雑草や土壌微生物を排除せず、畑全体をひとつの生態系として守る。

●プレパラシオン(調合剤)
畑にまく自然素材を発酵・熟成させて作る特製の“エネルギー剤”。

500号:牛の角に牛糞を詰め、秋から冬の間、畑の土の中で熟成させた堆肥。春に水で希釈して畑に散布し、根の発達と土壌の活性化を促す。

501号:粉砕した水晶(石英)を牛の角に詰めて夏の間に熟成。水で薄め、葉面に散布して光合成を促し、果実の香りや色合いを引き出す。

●月や惑星の運行に基づく作業
専用の「ビオディナミカレンダー」に基づき、月の満ち欠けや惑星の位置に合わせて剪定、誘引、収穫、瓶詰めなどの作業日を決定。


Maconnaisの先駆者:Bret Brothers

Mâcon南部のヴェルジェ村に拠点を置くBret Brothers(ブレット・ブラザーズ)は、2000年からドメーヌ名「La Soufrandière(ラ・スフランディエール)」で自社畑を運営。わずか4haの畑を2006年にビオディナミへ完全転換し、DemeterやBiodyvinの認証を取得しています。

●特徴的な畑管理

・牛の角(500号)や水晶(501号)を用いたプレパラシオンを全区画で実施
・雑草を完全に除去せず、区画ごとに多様な植物が共存
・畑作業はほぼ手作業。トラクターは軽量型を使用し、土壌の締まりを防ぐ

[哲学]
彼らは「ビオディナミは単なる農法ではなく、畑と自然を深く理解するための“学びの方法”」と語ります。収穫後もワイン造りは低介入。天然酵母発酵、樽熟成、最小限の亜硫酸使用でテロワールの表現を重視しています。


現場で感じたこと(訪問記風)
実際に畑に立つと、土の柔らかさや草花の多様さに驚かされます。化学肥料を使う畑では見られない、小さな昆虫や蝶が飛び交い、まるで野原のよう。醸造所でもカレンダーを見ながら作業日を決めており、ボトリング予定日も「根の日」「花の日」で調整されていました。


ブルゴーニュにおける現状と課題
・*コート・ドールからマコンまで、高級ワイン産地を中心に採用が進む
・天候リスク(多雨や湿気)による病害発生が大きな課題
・完全実施と部分導入(プレパラシオンだけ、除草剤不使用だけ)に分かれる傾向
・消費者の間でも「ビオディナミ=高品質」というイメージが広まりつつある一方、価格高騰の要因にもなっている

シャブリ地区 (Chablis):最も北に位置し、キンメリジャン土壌から生まれるミネラル感豊かな辛口のシャルドネ(白ワイン)で有名です。

コート・ドール地区 (Côte d’Or):ブルゴーニュの中心であり、最も名高く、高価なワインが生産される地域です。さらに以下の2つに細分されます。

  • コート・ド・ニュイ (Côte de Nuits):コート・ドールの北部に位置し、主にピノ・ノワール(赤ワイン)の銘醸畑が集中しています。ロマネ・コンティなどが有名です。
  • コート・ド・ボーヌ (Côte de Beaune):コート・ドールの南部に位置し、シャルドネ(白ワイン)の銘醸畑が集中しています。モンラッシェなどが有名です。

コート・シャロネーズ地区 (Côte Chalonnaise):コート・ドールの南に位置し、比較的リーズナブルで高品質なワインが生産されています。メルキュレー、ジヴリなどが含まれます。

マコネ地区 (Mâconnais / Mâcon):さらに南に位置し、主にフルーティーで親しみやすいシャルドネ(白ワイン)が生産されます。プイィ・フュイッセなどが有名です。ガメイ種の赤ワインも作られています。

ボージョレ地区 (Beaujolais):ブルゴーニュ地方の最南端に位置し、主にガメイ種から造られるフルーティーな赤ワイン(ボージョレ・ヌーヴォーなど)で知られています。

賛否両論

支持派は、「ブドウの生命力が高まり、ワインに奥行きと純粋さが出る」
懐疑派は、「科学的根拠が乏しい。結局は観察力と経験が最も重要」

ブルゴーニュの巨匠 Henri Jayer(アンリ・ジャイエ)氏もビオディナミには慎重で、「自然を深く理解することが第一」と語っていたとされます。

ビオディナミは、化学を否定するためだけの農法ではなく、自然や宇宙と調和しながらブドウを育てる哲学です。
その道は手間とリスクに満ちていますが、造り手はそこに確かな価値を見出しています。Mâconの丘の上でも、月と星の巡りに合わせた畑仕事が静かに続けられ、その成果がグラスの中で静かに花開いています。