この機会に、妻の親戚が酪農を営んでいて、有り難いことに訪問させていただきました。
今回の記事では、フランスの酪農の特徴、動物福祉の考え方などについて触れながら、フランスの酪農をご紹介します。
なお、フランスの一軒の酪農家を訪問しただけの情報なので、フランスすべての酪農家がそうであるわけではないことをご了承ください。
今回、訪問したのはフランス西部の Pompaire(ポンペール) にある酪農家で、妻・母の妹の夫が経営するGAEC Robert牧場です。
【牧場の紹介 YouTube】
酪農は日本でも馴染みがある産業ですが、実際にフランスの酪農家を訪れてみると、さまざまな点で日本との違いに驚かされました。
フランス酪農の規模と特徴
フランスでは、一つの酪農家が保有する土地が広く、平均的な経営面積は約60〜70haに及びます。これに対して、日本の平均的な酪農経営面積は約20ha程度と、フランスと比べると小規模です。
さらに、飼養されている牛の頭数にも大きな差があります。フランスの酪農家では平均して約60〜80頭の牛が飼育されているのに対し、日本では平均40頭前後が一般的です(もちろん土地の広い北海道は多頭です)。
こうした規模の違いは、フランスが広大な土地を活かして放牧や広範囲での飼育を可能にしているのに対し、日本は限られた土地を効率的に使って集約的に経営していることが背景にあります。
日本では、特に都市部に近い酪農家では放牧が難しいことが多く、牛舎での飼育が一般的です。このように、土地利用や経営規模における違いが、フランスと日本の酪農業のスタイルに大きく影響しています。
訪問したGAEC Robert牧場は、乳牛130頭、約150haの規模を3人でまわす経営をしています。
この規模を少ない人数で経営するポイントは、機械化です。
オランダLELY社のロボット搾乳機を2台導入しています。
牛たちは好きなときにやってきます。1日に3回搾乳していて、必要回に達した牛は中に入れても搾乳できない仕様になっています(ご褒美の餌がでない)。
ロボット搾乳機にはパネルが設置されていて、乳房ごとの乳量比較などが一目で分かります。
これで乳房炎や病気なども事前にチェックできるそう。
ロボット搾乳の様子。
牛さんin→乳房の洗浄→乳房のスキャン→ミルカーセット→搾乳→テートディップ(ヨウ素)→おわり。大体5~7分で、この間に、濃厚飼料を食べていました。
牛や機械に何か問題があるとPascalさんのスマホに通知が届く。1日の歩行数、食べた餌の量、乳量、発情時期などをコンピューター管理していて、パソコンで一目で分かるようになっています。
給餌サポートのロボット。必要に応じて、餌を牛たちの方へ寄せていきます。
子牛たちも見せてもらいました。
自動の哺乳機。左右から子牛たちは好きなタイミングでミルクが飲めます。コンピューター管理されていて、その日のミルク必要量に達した場合、ミルクは出ない仕様になっています。
乳製品の販路と用途
次に、乳製品の販路と用途についてです。
フランスといえばチーズが有名ですが、実際にフランス国内で生産される乳製品の多くは国内消費向けです。それでもチーズやバターなどは国外輸出も盛んで、フランスの乳製品は世界中で愛されています。
一方で日本では、牛乳の消費が中心で、チーズやバターは輸入品が多い印象です。日本の家庭では、牛乳は朝食や料理に使われ、日常的に飲まれることが多いですが、フランスでは乳製品の用途がより多様化していると感じました。
Bonjour!ギャル(未経産牛)たちに挨拶。
キレイな牛舎。左が経産牛群130頭。右が未経産牛群70頭。
大体200頭規模になるよう経営しているそう。
アニマルウェルフェアの考え方
フランスの酪農において特に興味深かったのは、アニマルウェルフェアに対する意識の高さです。
フランスでは牛が自然に近い環境で育つことが重要視され、放牧が推奨されています。
GAEC Robert牧場でも、牛たちが広々とした草地で自由に歩き回る姿が見られました。
また、牛舎の中にも色々な工夫がありました。
牛たちの快適性を向上させるため、ウォーターベッドを採用されていました。
気持ちよさそう。
牛舎の様子。コンピューターによる温度管理をしていて、25℃を超えると自動で大型旋風機が稼働、もっと暑くなるとミストが噴射されます。
自動のマッサージ器。好きなときにマッサージしてもらえます。いいな
削蹄の時に使う檻みたいなやつ。
日本でも動物福祉に対する意識は高まっていますが、放牧が可能な土地が限られているため、室内飼育が中心です。とはいえ、日本でも飼育環境を改善し、動物のストレスを減らす取り組みが進められています。
両国の違いはありますが、どちらも動物の健康や福祉を大切にする姿勢は共通しています。
訪問して感じたフランスの酪農の魅力
今回の訪問で特に印象に残ったのは、Pascalさんの考え方です。酪農家をきちんとビジネスとして捉え、経営している点です。
農家は貧乏ではなく、しっかりとマネタイズして酪農を経営する。経営者の金銭的な不安がなくなり、しっかりとした経営が整えば、牛たちの過ごす環境を良くすることにお金が使える。
さらに自然環境との調和を大切にし、広大な自然の中で牛がのびのびと育ち、健康な乳製品が生まれる環境ができる。
牛たちを思えばこその投資は農業経営を安定させ、農業を産業として確立するカギになると感じました。
GAEC Robert牧場では、バイオガスプラント事業も行い、エネルギー循環の取組も行っています。
今回の牧場訪問では、自然環境や動物福祉を重視しながら、酪農が持続可能な取り組みの一環として発展していると実感しました。
まとめ
フランスと日本の酪農は、異なる土地や文化の中で育まれてきたものですが、どちらも持続可能な形で発展を目指しています。フランスの酪農では広大な土地を活かし、自然環境との調和が図られているのに対し、日本では効率性を重視した酪農が主流です。
しかし、どちらの国でもその国の土地や風土に合わせて酪農が営まれていることが分かりました。
これからも、両国がそれぞれの課題に取り組みながら、持続可能な酪農を目指していくことが期待されます。
前職で関わっていた 畜産ティーン育成プロジェクト を思い出します。
ここに日本のスーパー農業高校生たちが来たらどんな質問するんだろう。
今年も、この夏に海外の畜産を学んだ畜産LOVEな高校生たちが無事に帰国し、報告会が開催されました。
最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました。
今後も機会があれば、日本とフランスの農業について発信していきたいと思います。
À bientôt✋
📝マコマコ